あけましておめでとうございます。新年にあたり、「ドイツからの風」を送ります。
Kleingarten(クラインガルテン)
2007年6月7日、この旅の大きな目標の一つ、「赤ちゃんポスト」の見学のためにミュンヘン・シュバービング地区を訪れた。Uバーン(地下鉄)のシャイデプラッツ駅で下車し、地上に出ると新緑の街路樹が並ぶ町が広がっていた。この地域は高級住宅地だという。交差点の横断歩道を渡ると、そこはクラインガルテンの一角だった。クラインガルテンとは、「小さな庭」という意味で、「ドイツ版家庭菜園」のことだ。いままでは列車の窓から眺めるだけだった。比較的大きな町の線路沿いに数10
区画が作られている。ドイツ社会に根を張るレクレーション施設で、私たちもいずれは見学したいと考えていた。ドイツ人の都市観や自然観が学べるのではないかと考えていた。
幸運にも、そこへ一人の持ち主が現れた。さっそく見学を頼んだところ、こころよく承諾してくださった。広さは30㎡ぐらいだろうか。野菜と花の栽培のほかに、水槽には金魚も飼われていた。持ち主は、たいへんていねいに説明し、撮影にも応じてくれた。自分の“城”を案内するという感じで、ほんとうに幸せそうだった。ドイツの人々はクラインガルテンで都市生活で欠けたものを補っていると感じた。(写真右の大きな葉はルバーブ)
Babynest(ベビーネスト 赤ちゃんポスト)
いよいよ赤ちゃんポストを探すためにシュバービング病院の周辺に着いた。受付や通りがかりの人に所在地を聞いてみたが、どうも要領を得ない。私たちの英語がたどたどしいからだ。それに赤ちゃんポストをBaby nestと呼ぶことを知らなかったのも一因だ。なにより、Baby nestはおおっぴらに話題にするようなものではないの
だ。案内標識でBaby nestを見つけてやっとた どり着いた(写真左)。Baby nestの入り口は目隠しのような塀があり、出入りが目立たないように作られていた。Kinder krankenhs.(子ども病院)の片隅だ。ハンドルの付いた扉があり、なにか近寄りがたい雰囲気をたたえていた。明らかに人間の尊厳を意識した作りだと感じた(写真左)。赤ちゃんポストに注目したのは、当時、日本でも話題になっていたからだ。九州の病院で設置が決まり、マスコミで取り上げられていた。「赤ちゃんのポスト」ではなく、「Babynest」というネーミングに先覚者の精神を知ることができたような気がする。ドイツ語のnestには「巣」のほかに「住まい」「小さな町村」「寝床」という意味がある。
病院を後にして100メートルぐらい歩いたとき、ヘリコプターの轟音が近づいてきた。見る間に病院内に着陸し、すぐ飛び立って言った。シュバービング病院にはヘリポートがあるようだ。私たちも救急車のサイレンには慣れていたが、ヘリコプターのレスキューを見るのは初めてだった。緊迫した空気を感じながら、搬送された人の快方を祈った。
Spargel suppe(アスパラスープ)
ミュンヘンの中心地を目ざし、シュバービングの町を歩いた。道路を挟んで教会(St. Urusla 聖ウルスラ教会)と反対側に立派なレストランがあり、木陰の庭がKaisergartenというカフェになっていた。新緑の下、こもれ日が柔らかく落ちるテーブルを囲んで人々がゆったりと食事を楽しんでいた(写真上)。その状況を言葉で伝えるのは難しいが、「これがドイツだ」と確信をもって言える雰囲気だった。私たちにとっては少し早めだが、そこで昼食をとることにした。あまりおなかが空いていなかったので、アスパラスープとヴァイツェン(ビール)をオーダーした。
スープにはパンが付いてくるので、昼食には十分だ。運ばれてきたスープに花が浮かべてある(写真右)。一瞬、なにかのまちがいかと思った。花はマリーゴールドとラベンダーである。ラベンダーは良いとして、マリーゴールドは、虫除けのために畑の縁に植える植物だ。食べられないことはないだろうが、自分たちは害虫扱いかと思わざるを得なかった。ビールもスープも雰囲気も満足した昼食だった。カフェの脇には子ども用のベンチが置かれていた(写真右)。家族が集まると
ころに子どものための施設が用意されていることは、ドイツによくある。Kaiserとは皇帝と いう意味なので、由緒あるレストランと思われる。
隣りの聖ウルスラ教会は、碑にKath.kirche im neuen Stadtteilと書かれているので、ミュンヘンの新市街地では重要な位置づけの教会なのだろう。聖堂内にもれる光は重厚な雰囲気を作っていた(写真 )。
この日は、アルテ・ピナコテーク(Alte Pinakothek 中世、近世の作品を展示する美術館)に立ち寄り、絵画から私のライフワークである「ドイツからの風」のイメージを探った。充実したドイツの一日だった。
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