2011/01/30

標高1400メートルの寒さ 八ヶ岳山麓No.115

1月下旬ののようすHpp1270006_2 

 八ヶ岳の積雪は少ない。山腹の雪は赤岳山頂付近までまだら模様だ。それだけ今冬は寒いと言える。冬型の気圧配置が続いているので、日本に吹きつける西風の湿気は日本海側で雪になってしまい、内陸部には達しない。

 冬、山小屋に到着すると、まずユーティリティーを立ち上げる。水道管に巻きつけたヒーターの電源を入れて水を通す準備をする。Hpp128575710分ぐらいたってから、すべての蛇口を閉めて水道の元栓を開けるのだが、パイプの途中が凍っているらしく水が出ない個所がある。だいたい蛇口付近が凍っているので、ドライヤーで暖めたりお湯をかけて解かす。なんだかんだで、ユーティリティーが完全に立ち上がるまでに1時間はかかる。これが厳冬期に山小屋へ来たときの作業である。帰るときの水抜きも油断できない。点検を見落とすと水道管が破裂する羽目になる。

 27日夕刻、到着時の室内は-5度Cだった。15度Cになるまでに3時間はかかった。山小屋は安普請なのでやむを得ない。厳寒時の室内の常温は15度Cと決めている。Hpp128835020度Cを保つには灯油の消費量が倍近くかかるからだ。厚着で15度Cを乗り切るのである。慣れると、都会の20度Cよりは温かく感じられるから不思議だ。寝るときの布団も氷点下である。昔は、自身の体温で温めて眠ることができたが、最近は電気敷き毛布を使っている。それでも、山小屋へ来た初日は足が暖まらない。暖房器具の熱は家を暖めるために使われてしまうからだ。二日目からはだいぶ楽になる。

 最近は、ほとんどキツネを見なくなった。しかし、27日の夕方、山小屋へ向かう車窓から、家内がキツネを見つけた。やせ細ってとぼとぼと畑を歩いていたという。Hpp1298444キツネにとっても今年の寒さは相当こたえているのではないか。28日の朝、山小屋前の道路にキツネの足跡が残されていた(写真上右)。この時期、ほっとするのは湧水である。真冬でも約8度Cの水が湧いていて、あたりには緑が目立つ。私たちは湧水地に「クレソン谷」と名まえを付けて大切にしている。29日に立ち寄ると、クレソンが寒気に耐えてがんばっていた(写真右上)。湧水地は野生動物にとってもオアシスである。いろいろな動物の足跡が目立つ。私たちは朝食用にクレソンを4本ほど採取した。

Hpp1285797 この時期は、氷と霧氷の撮影がおもしろい。28日と29日は、浅瀬の霧氷を撮影した。そこは水源に近いので、水温は7度Cと高い(写真左下)。気温はHpp1288374_2マイナス数度である。15度以上の温度差が霧氷を作る。水面から蒸発した水蒸気は、すぐ冷やされて固体になる(気体から固体へ戻るときも昇華という)。このとき、そばにある落ち葉や小枝を核にして結晶ができる。これが霧氷だ。霧氷は、寒気が取り持つ水と植物の共演と言えよう。 寒い八ヶ岳山麓へやってくるのは、このドラマを見るためだ。

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2008/12/20

「眠り」を解明しようとした写真集

馬場磨貴・写真集『ABSENCE』Hppc151227

                

 睡眠とはなんだろうか。まず休息であり、無意識、無自覚な状態であることはわかる。動物学や生理学、医学の分野では、かなり研究されているようだ。しかし、人間関係としては解明されていないのではないか。すなわち、覚醒している人間にとって、眠っている人間はどのよう存在になるのか、逆に、眠っている人間にとって、目覚めている人間とはどんな関係になるのだろうか。

Hppc151220 これに取り組んだ成果が馬場磨貴・写真集『ABSENCE』である。午前4時(am4:00)にかかってきた電話のベルから眠りに対する思考と解釈が始まる(著者のあとがきから筆者は想像した)。だれもが体験し、一生の1/3弱の時間を費やす睡眠に対して、写真で解明しようとしたところに本写真集のオリジナリティーがある。被写体の人間は、すべて眼を閉じている。

Hppc151223 最近の脳科学によると、睡眠は記憶の誘因となり、それを固定する働きがあるという。午前4時ごろは眠りの浅い「レム睡眠」の段階といっていいだろう。夢を見やすい時間帯だ。レム睡眠には、学習したノウハウを脳に深く刻み込む効果があるという。ABSENCEとは「不在」「欠席」といった意味で、PRESENCE(存在、実在)の反対語だ。ABSENCEとは、眠っている人間の人格不在を意味しているかもしれないが、人間性はあるはずだ。脳で記憶が形成されていくということは人間の高邁な精神状態であるからだ。また、浅い眠りは半覚醒とも言えるので、人間関係が成り立ちそうでもある。表題のABSENCEには、このような前提があるのではないか。なお、本写真集の巻末には竹内万里子氏による解説が、和文、英文、仏文で掲載されている。体裁:A4変形、1C、82P 蒼穹社刊 3,600円

Hppc151224 私は、かつて専門学校で馬場磨貴(うまば まき)さんを指導したことがある。武蔵野美術大学短期学部油絵課を卒業してから日本写真芸術専門学校に入学してきた。私は、写真撮影基礎実習を指導したが、もっとも向学心に燃えた学生の一人だった。ちなみに、最近は大学を卒業してから専門学校で学ぶ青年が多い。専門学校では、実学を身につけることができるからだろう。実は、偶然にも馬場さんの母上も私の生徒さんである。ときどき指導しているヌービック・フォト・フレンズ5のメンバーである。母上の作品は先端的であり挑戦的である。なかなかの実力の持ち主だ。磨貴さんの才能はお母さん譲りのように思える。母子に写真を指導するチャンスに恵まれ、光栄である。

Hp  馬場磨貴さんは、文化庁が主催するDomani・明日展2008に出展している。明日を担う15名の作家の一人に選ばれた。同展は現在、六本木の国立新美術館で開催されている。会期は2009年1月26日(月)まで。

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