ドイツ的なブラームスの音楽 ドイツNo.135
ハンブルグ・ブラームス博物館の印象
ドイツへのフライトは、直行便で約11時間かかる。機内食とビールは楽しみだが、当然、それだけで時間をつぶすわけにはいかない。映画や音楽を計画的に視聴することがポイントになる。私は、往路の機内では撮影の構想を練ることにしているが、そのとき、音楽が重要な役割を果たす。クラシック音楽のメニューを見て、私の趣向に合った曲を選ぶ。 (写真右 ニュルンベルグの城壁)
2011年、往路便のプログラム(クラシック音楽チャンネル)で私が注目したのは以下のとおりだ。J.S.バッハの「無伴奏バイオリンのためのパルティータ」、モーツァルトの「ピアノ協奏曲No.20」「同No.22」「同No.25」「同No.27」、ベートーベンの「弦楽四重奏曲作品18」「同作品127」、ブラームスの「ヘンデルの主題による変奏曲」と「ピアノ協奏曲第2番」などだ。いずれもドイツにかかわる名曲である。ドイツの風土と精神を感じとり、撮影のスキーマを作るためにブラームスを選んだ。重厚で深淵、抽象化されたブラームスの音楽は、私の作風に参考になるのだ。 (写真上左 ドイツのメカニズム<ヴァッサーブルグ市博物館蔵>)
ヨハネス・ブラームス(1833~1897年)は、J.S.バッハ(1685~1750年)、ベートーベン(1770~1827年)と並ぶドイツの“3大B”の一人である。だれがもっともドイツ的かと聞かれたら、私は、ブラームスを最右翼に挙げたい。3人のいずれもが身震いを感じるほどにドイツ的だと思うが、バッハはひと言で評すれば宗教的な敬虔さが持ち味だと思う。ベートーベンはドイツ的というより世界的ではないか。バッハもベートーベンもユニバーサル(universal)なのである。一方、ブラームスは重厚、荘重、地味で渋く沈潜的である。ドイツの自然(シュバルツバルトなど)や町並み、芸術や学問、建築、思想、文学などと重なる部分が多いと思う。また、ドイツ人の心底にあるメランコリーも豊かに表現されている。以上は、概念的でやや誇張した評価であることを断っておく。
ブラームスとほぼ同時代に活躍したW.R.ワグナー(1813~1883年)も、ドイツ的な音楽家とされている。代表作・楽劇「ニーベルングの指輪4部作」は、ゲルマン民族の精神的遺産を謳いあげた大作である。国粋主義者だったヒトラーが心酔するほどの音楽だったことからも、ワグナーはもっともドイツ的な音楽家であることはまちがいない。ワグナーの代表作は、歌劇や楽劇である。すなわちタイトル(標題)があり、歌詞とセリフが伴う標題音楽である。一方ブラームスの代表作は、4つの交響曲や2つのピアノ協奏曲、バイオリン協奏曲、多くの室内楽などで、タイトルは付いていない。もちろん、例外もある。「ドイツ・レクイエム」「大学祝典序曲」「悲劇的序曲」などの管弦楽曲や歌曲には標題が付いている。
「ハイドンの主題による変奏曲」や「ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ」は形式名で標題ではない。ブラームスは絶対音楽の分野で活動したと言ってよいだろう。私は、絶対音楽が好みだ。タイトルと歌詞に左右されない音とリズムだけの音楽を志向している。そこで、ブラームスがもっともドイツ的だと言ってしまった。 (写真上左2点 ブラームス博物館。同上右 ブラームス博物館のあるペーター通り)
2011年の往路の機内では、ブラームスのピアノ協奏曲No.2(op.83)をじっくり聴いて構想を練った。この曲はブラームス渾身の大作である。通常、協奏曲は3楽章構成であるが、本曲は4楽章構成だ。もしかしたら、4楽章の交響曲を作曲しようとして楽想を練り、途中で協奏曲へ鞍替えしたのではないか? それぐらい勇壮でスケールの大きい曲である。作曲時期は、交響曲No.2とNo.3の間なので、もっとも充実した活動時期に作曲されたことになる。当時、機内でこの曲を聴きながら、取材地であるヴァッサーブルグとニュルンベルグでいかにドイツ風の写真を撮ろうかと考えた。 (写真左 ペーター通りに建つ18世紀の建築)
昨夏、ハンブルグを訪れたとき、ブラームス博物館(BRAHMS MUSEUM)へ出かけた。ブラームスはハンブルグ生まれの作曲家だ。楽しみにして立ち寄ったのだが、あいにく日曜日で休館だった。隣りのテレマン博物館だけを見学して帰ってきた。ブラームス博物館やテレマン博物館のあるペーター通りには18世紀のハンブルグの町並みが再現されている(写真上左)。建築は立派なファサードをもつ6階建てだ。そこに身を置くと前後からファサードが覆いかぶさってきて圧倒される。その緊張感はブラームスの音楽のように渋く勇壮だった。ペーター通りはブラームスの生誕地ではないし、ブラームスとのかかわりはわからないが、ブラームス博物館を取り巻く環境としてふさわしい雰囲気だと思った。
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