なぜ、北へ傾くのか 横浜No.89
ハクモクレンの屈光性
たびたび書いているように、私はモクレンが好きだ。この冬は、自宅付近の同じ樹に何回も足を運んだ。特に、開花した2月21日以降は、ほぼ毎日会いに出かけた。私がモクレンに興味を感じるいわれは、つぼみの形にある。デフォルメされた砲弾型は、中に秘めた力を感じさせるし、何よりも原始的な形が魅力的だ。 (写真上 2月29日のハクモクレン。西の方角から撮影、左側が北になる)
ハクモクレンのつぼみは、だいたい北に向かって頭を傾けている。特に、開花直前には顕著だ。北向きということは太陽とは逆の方向である。すなわち負の屈光性をもっていることになる。普通、植物の茎や葉は太陽の方向へ向かって傾く。これを向日性、または「正の屈光性」をもっているという。しかし、ハクモクレンのつぼみは違う。太陽とは反対側の北の方角に傾く。屈光性は負である。なぜなのだろうか。つぼみだからだろうか。しかし、つぼみは茎の延長でもあり、葉の進化したものでもある。この頭を傾ける仕草が、ハクモクレンのつぼみの魅力に結びついている。 (写真上右と同左 今年のつぼみ。どちらも西の方角から撮影)
『つぼみたちの生涯』(田中 修 著 中公新書)によると、一般的に、花のつぼみが開くには光と熱が必要だという。太陽光は四季により日照時間が変わり開花の時期を決める。ハクモクレンは春に花をつけるので長日植物である。毎年、春に日照時間が伸びてくると、開花の準備が整う。しかし一方、熱(気温)も開花を左右する。大局的な開花時期は日照で決まるようだが、実際の開花には熱が欠かせない。平均気温や積算温度が開花時期を早めたり遅らせたりするほかに、開花現象には熱が欠かせないという。熱が開花にどのようにかかわるのかは、『つぼみたちの生涯』を参照してほしい。
つぼみは、開花の準備が整うと熱が必要になる。そこで、気温以外に太陽光の輻射熱も大いにかかわってくるはずだ。その熱をすこしでも多く取り込むには、太陽光を受ける照射面の状態が問題になる。広い面積に直角に受光するのが効率が良い。ハクモクレンのつぼみが北向きに傾くのは、そのためではないだろうか。垂直に立っているより太陽の方角に背を向けて傾いていたほうが、光の受光効率は高まるであろう。受光効率は入射角のCosineの2乗倍で変わっていくからだ。これが私の考察だ。
つぼみが北向きに傾く理由がもう一つ考えられる。今年は暖冬だった。つぼみは光による準備が整う前に気温(熱)の影響を受けて開花時期を早めた。つぼみの南に向いた面は太陽光の輻射熱で温められる。すると、つぼみの南側の面が開花の準備を始め、花弁や萼の外側だけが伸びていく。
そこで、南面だけが成長する(伸びる)ことにより北に傾いたのではないか。『つぼみたちの生涯』によると、通常の開花ではすべての花弁の内側(花芯側)が伸びて外側に開くという。
前者の考察はつぼみの生活形に着目したものであり、後者の考察は環境に左右された結果を重視したものである。どちらが正しのか、また別の解釈があるのか、専門家のご意見をうかがいたい。 (写真上 3月3日現在のハクモクレンの開花状況。北の方角から撮影。3~4分咲きといったところか)
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