2017/07/31

2017年7月下旬の森の生活 八ヶ岳山麓No.208

 今年の季節の推移は早いのか、遅いのか、どちらだろうか? 春の植物については、昨年に比べて1週間ぐらい遅かった。それはすなわち、平年並みを意味しているのだろうか。森の中で生活していると、自然界の動きがよくわかる。Hp726_p7264292Hp_721p721399
八ヶ岳山麓のウバユリやギボウシの開花も、昨年よりほぼ1週間遅れである。関東甲信越の梅雨明けは早めだったようだが、前線が南下して、八ヶ岳山麓も、ここ2、3日は梅雨のような天候だ。梅雨明け後1週間の夕焼けの美しさも、まだ見ていない。「梅雨明け宣言」にはいろいろ問題がある。7月下旬の森の生活をレポートしよう。

ユリ科の植物の不思議
 ギボウシ(写真上右2点)は、つぼみの状態と開花時期の状態が、別の花ではないかと疑うほどに大きな違いがある。Hpp7133679_2
Hpp7264330ウバユリ(写真下左2点)も同じようにひと塊のつぼみから1~数個の花が咲く。どちらもユリ科で、つぼみは天に向かって砲弾型をしている。しかし、開花直前になると、花冠は横に向きを変える。なぜこのように進化したのだろうか。きっと昆虫からの防御と授粉を助けるために共進化したのだろう。しかし、ウバユリには、つぼみのうちに虫に食われてしまうものが目立つ。

森の訪問者
 山小屋に来て、ベランダで初めて夕食を摂っていると、ミヤマクワガタのメスが外灯にぶつかってきた。翌日はコクワガタのオス(写真下右)がやって来た。Hpp7223490
 毎年一回は観察するセミの羽化に、今年も巡り合った。エゾクマゼミ(写真下左)が変わった場所で羽化していた。シカに葉を食べられたミズナラの小木で、小枝の先端だった。行き止まりの細い枝で戸惑ったに違いない。Hpp7240247向きを変えて、羽化を開始したようだ。羽化した場所から離れて羽を整えるのを初めて観察した。危険な羽化だったと思われる。しかし、無事に飛び立っていったようだ。
 オオミズアオには、何か因縁を感じる。今までに、身近な要人が亡くなると現れるのだ。今回は、4月に叔母が102歳で永眠した。オオミズアオを見ていると、叔母の才気と厳しさを思い出す。Hpp7264375
 カミキリムシは、日本に600種ほどいるという。夜のべランダに飛び込んできた個体は、なんとも渋い色のカミキリだった。翌日よく見ると、重厚なカラーと質感のある個体だ。Hpp7284626しかし、同定はできなかった。なかなか賢いカミキリで、虫かごの蓋を少し開けたら、あっというまに逃げてしまった。そのとき、翅を広げてファッションショウーを見せてくれた。

夏野菜のパスタ
 清里のモリモトへランチに出かけた。トマトベースの夏野菜のパスタがおいしかった。ズッキーニ、トマト、カボチャ、ナス、ブロッコリーなどの夏野菜をふんだんに交ぜてトマトベースに味付けされている。Hpp7224_2

Hpp7224102_2その上にチーズが振りかけられている。さっぱりとした味わいながら、チーズが深いコクを作っている。いつも、ランチセットの前菜が魅力的だ。Hpp7224109今回は、レタスのスープ、自家製ハムのサラダ、清里サーモンのカルパッチョなど5品に自家製のパンが少々付いている。

ニュー・ロック
 レストラン・ロックは、清里の顔だ。昨年、火災に遭い全焼した。今春再建されて営業を開始した。外観や内装に大きな違いはないが、部屋のストーブがなくなり、トイレは一新された。Hpp7254153玄関前のアプローチが広く華やかな雰囲気になった。山小屋でお付き合いしている友だちと一緒に、ランチに出かけた。野菜いっぱいのビーフカレーは相変わらずの味だった。

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2017/07/16

キビタキの営巣に付き合う 八ヶ岳山麓No.207

 昨年から今年にかけて、野鳥の営巣(子育て)をいくつか観察した。野鳥の健気な子育てに感心した。 私たちは、山小屋の近くに、巣箱を4つばかり置いてある。いずれも家内の手作りだ。今までに、3つの巣箱には、営巣の実績がある。Hp616p6163247 今年は、今までに無視されていた4番目の巣箱にも、ヤマガラが営巣した。そのほかに、今年は、台所の窓辺にもキビタキが営巣し、窓が開けられないという事態になった(写真右 巣立つ前日の夕方、親が子に餌を与える。写真下左 台所の窓辺にできたキビタキの巣)。

 野鳥たちが、巣の場所を決めるのには、いろいろな理由がある。まず、天敵に襲われない安全な所だ。Hpp5200146 キビタキにとって安全な場所とはどのようなところだろうか? 野生動物のテンやキツネ、カラス、猛禽類、蛇などから、巣を守れるかどうかが、第一条件だ。そのためには、人の生活圏がもっとも安全だ。キビタキは、山小屋の台所の窓の格子を利用して巣を作った。ちょっと山小屋を空けていたすきに作られてしまった。私たちが山小屋に来たときには、巣は完成していた(5月14日)。窓辺を占領されて、私たちの生活のし方に支障が生じてきた。Hp2p4180492 しかし、私たちは、キビタキのために、多少の不便を我慢することにした。キビタキのほうも、我々を信じてよいのかどうかを、様子をうかがっているようだった。カップルで私たちのそばまで飛んできて、観察しているようだ。キビタキは、めったに見られる鳥ではない。しかし、今年のこの時期にはしょっちゅう観察できた。鳴き声も頻繁に聞こえた。巣を作ってからしばらくは卵はない。その間に周囲の環境を点検しているようだ。Hpp5280417

 私たちが、家の裏に回て、巣を直接、観察しよとすると、つがいは巣を離れ、近くの樹に留まって、様子をうかがっている。警戒しているようだ。私たちはしかたなく、室内から窓越しに観察することにした。窓ガラスは、半透明の型板ガラスだ。シルエットがやっと見える程度の観察になる。1個目の卵が確認できたのは、5月16日だった。2個目を26日に確認、私が2階の窓から自撮り棒で撮影したのが28日だ(写真上右 卵2個を確認)。このときも、自撮り棒を窓から少し出しただけで、親は巣を離れてしまった。Hpp6163290

 約1週間、山小屋を空けて、6月7日に山小屋へ戻ると、2個の卵は孵っていた。それからは、親の熱心な育児が、窓越しに感じられた。早朝から夕方暗くなるまで、親は代わる代わる、約5分から20分間隔で餌を運んでくる。夜は交替で巣に留まって子ども の面倒を見る。

 図鑑によると、キビタキはスズメ目ヒタキ科で体長14センチとあるが、これはオスのサイズではないか。メスは、2センチぐらい大きく見えた。オスの色は胸が黄色で、白と黒の羽のコントラストが美しい。ひと目でキビタキとわかる。メスは全身が黄褐色で地味だ。ガラス越しのシルエットでも、オスとメスの区別がつく。夜に、室内灯のよって照明されたオスの羽の白い部分が見えた(写真右上)。

Hpp6163265Hp616p6163254 6月16日の夕方、家内が出かけているときに、我が家の犬が大声で鳴き喚いた。私の犬に対する対応が気に入らないらしい。耳をつんざくほどの鳴き声に、私は、窓の外のキビタキが気になった。 せっかく、私たちが大切にしてきたキビタキに対する思いを無にするような鳴き方だったからだ。これではキビタキの親は、心配だろう。窓の外に不穏な気配を感じた。シルエットの親と雛が動き始めた。羽ばたきの練習も始めた。巣立ちの間近なことを予感した。(写真上2点 巣立つ前日の雛のようす。羽ばたきの練習をしている)

Hpp6170210  Hpp6170212 翌日、6月17日、朝から窓の外が活気づいている。親が盛んに餌を運んでくる。そして出かけるときは、口に白いものを加えて飛んでいく。巣の中の糞を運び出しているのだ。どんな野鳥も、巣立ち直前になると巣の中に溜まっている子どもの糞を運び出す。糞の臭いが天敵を呼び寄せることになるのを警戒しているのだろう。ますます、巣立ちが近いことが予想された。10時ごろ、親に巣立ちをうながされて、2羽がほとんど同時に巣だっていった。Hpp6240235なんとも言えない寂しさと空虚感に襲われた。約1か月に及ぶキビタキの営巣に立ち会って、人間の育児や夫婦の絆について、あらためて考えさせられた。 (写真上2点 巣立ちの日の親子。同右 キビタキの巣材、下が窓側、白いものは糞の残り)

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2017/03/20

2017年3月中旬の森の生活 八ヶ岳山麓No.206

★八ヶ岳山麓の現状
 3月12日、約2か月半ぶりに八ヶ岳山麓を訪れた。冬の期間、山小屋の周囲は厳しい寒気に襲われる。そこで、暖房用の燃料費を節約しようと、山小屋生活を自己規制した。Hpp3170186_2その結果、氷の撮影と初期の渓流釣りを断念した。不在中の最低気温はマイナス15.2度Cだった(写真)。この最低気温は、私にとっては意外だ。もっと寒いのではないかと思っていた。Hp313_p3131680_3
 往路途中の清里・シーニックデッキでシカの歓迎を受けた(写真)。山小屋へ到着。この時期としては暖かな日和だった。141号線に設置してある野辺山の気温表示には2℃と表示されていた(写真)。氷点下でないのがありがたかった。なにしろ、山小屋生活の初日は寒い。燃料費のほとんどを、小屋を温めるのに使ってしまうからだ。Hpp3151832しかし、日差しが高く、長くなっているのが、春の訪れを感じさせる。
 翌々日、窓を開けると雪景色だった。ベランダの手すりに積もった雪から、積雪は10センチぐらいと推測した(写真)。しかし、日中の日差しでほとんど消えてしまった。

★清里・モリモトのランチ
 14日は、さっそく清里へ出かけ、モリモトのランチを食べた。イチローそっくりのマスターが出て来たのであいさつをした。最近は、この店の常連に名を連ねたのかもしれない。Hpp3141773この日に食べたランチコースの前菜は、『花豆のスープ』と『自家製ハムを添えた野菜サラダ』、『清里マスのカルパッチョ』をワンディッシュに盛りつけたものだ。メインディッシュは、オイルベースの『香川県産のマテ貝とプチベールのスパゲッティ ゆずこしょう風味』だ。一口食べると、ほのかなユズの香りが口いっぱいに広がる。マテ貝は、今までに食べたことがない。Hp_p3141776_2同じ貝類のボンゴレやムール貝とは違った味覚だ。マテ貝の心地よい食感は、アルデンテのパスタとハーモニーを作る。デザートは、『吉澤さんちの花豆と地どり卵のカタラーナ』だった。平べったいお皿に固められたプリン状のもので、表面をこんがりと焼いたお菓子だ。Hpp3141786中央に生クリームと花豆をアレンジしてある。焼き跡がサクサクしていて香ばしい。いつもながら満足できるランチだった。
 最近は、清里観光のお客もここモリモトを目ざしてやって来るようだ。もともと、地元の人気店だったよううだが、観光客にも知名度が高くなってきたのだろう。

★シカの歓迎
 シカの展望台シーニックデッキへ車を止めて観察した。約30頭がわれわれのシーズンインの歓迎してくれた。Hpp3131656

★ベランダに現れたテン
 3月16日もわずかな積雪があった。ベランダの雪面に大きな足跡がある。かなり大きな肉球を持った動物だ。夜中にベランダを歩き回ってから帰ったようだHpp3160084_2Hp_p3160080

★カエデの落ち葉
 もっとも早く芽を出すカタクリやギョウジャニンニクを探したが、みつからなかった。その代わりに林床をおおっているカエデの枯れ葉を撮影した。Hpp3151908_2

★氷シーズンの終焉
 3月19日、散歩道から渓流をのぞいてみた。渓流の氷はほとんど解けて消えている。わずかに残った氷の末路を見届けた。この氷(写真)の成り立ちは、渓流におおい被った倒木から垂れ下がった氷柱が発達して(太くなり)カーテンのようにつながったと考えられる。そこに、飛沫が当たり、ますます厚みのある壁になったようだ。Hpp3190130_2

Hpp3190131_5
Hpp3190132大きな氷は、なかなか解けないので、現在まで残っていたのだろう。 さて、氷をつなぎ留めている倒木と氷が離れそうなので、その瞬間を撮ろとシャッターチャンスを待つことにした。3カットの写真は、氷のシーズンの幕引きを象徴しているといえよう。

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2016/12/14

2016年12月上旬の高原のようす 八ヶ岳山麓No.204

兵どもが夢の跡Hppc120103

 私たちの山小屋がある川上村は、『野菜王国』を自称している。キャッチコピーには『高冷不毛の寒村からレタス生産量日本一の高原野菜立村へ』(川上村誌 通史編 現代より)と書かれている(写真左)。しかし、野菜王国に上りつめるには並大抵の苦労ではなかったようだ。Hp1253pc050006_edited1

 

 川上村誌 通史編 現代 近現代概説(写真右) 第三章 第三節「野菜」に10項にわたって、野菜王国への経緯が記されている。第9項の「野菜産業」によると、川上の農業を企業経営として確立しようという意図が感じられる。Hppc120150_2例えば、昭和63年(1988年)に掲げた基本方針には、「ニーズに対応した本物づくり」「ブランドの確立」「先端技術に対応」「農家の経営基盤の強化」「農業者の健康管理と後継者の確保」「魅力ある農村づくり」など優良企業を目ざした方針だ。企業イメージ、社員の福利厚生などに配慮した会社組織に匹敵した取り組みだ。
 同年1月には、村営有線テレビ局を開局、7月からは村民向け野菜市況速報の放送を開始した。平成3年(1991年)村内に設けた観測地点のデータを活用して詳細な天候の予測情報を流し、野菜生産の一助とした。そのほか、機械化やポリマルチの採用、農薬散布の適正化、など栽培技術の向上に努め、平成5年(1993年)には、村内3農協の販売総額は200億円に達し、過去最高を記録したという。

 

 

 一般に、農業は加重労働を強いられる。レタスなどの生鮮野菜もご多聞にもれず、たいへんだ。私の観察では、出荷が最もたいへんに見える。Hppc070262_2Hppc070266_2ばしば、早朝3時前に電灯を付けて作業している現場を見たことがある。「朝採り」で消費者へ提供するためだろうか。私たちには深夜の時間帯に仕事をしているのである。Hppc070207出荷作業が一段落して、朝日を浴びながら畑で朝食をとる農家の団らん風景を見ると、何かうれしさが込み上げてくる。夜から早朝にかけて出荷作業に取り組む人々の姿には、どこか共感できる。むかし、編集部で仕事をしていた時を思い出すからだ。徹夜の校了日に朝日のまぶしさに、何とも言えない満足感を感じたものだ。Hp127pc070334どんなに過酷な労働でも、収益が上がればやりがいがあるだろう。

 

 12月に入って、気温が急に下がった。12月7日の最低気温は、マイナス8.5度C(写真左 最高最低温度計を夕方に撮影)。就寝中は電気毛布を使わないと足が温まらない。昔は電気毛布などは使わなかった。10度C以下の布団に入ってもすぐ眠れたのだが。本格的な冬に入った八ヶ岳山麓の情景を紹介しよう。(写真上は12月5日の八ヶ岳。根雪が付き冬の厳しさが出てきた)

 

 

●冬の畑に残された野菜を見ると、まさに「兵どもが夢の跡」である(写真上3点
ハクサイとブロッコリー)

 

 

●ボタンズルのドライフラワー。逆光で異常に輝いている(写真下右)Hppc070220

 

●ヤドリギ。落葉樹の枝に寄生する植物だ。ヨーロッパでは、果実のついた枝をクリスマスの飾りとして使うHppc070275_edited1

 

 

 

 

 

 

 

●クレソン。冬枯れの中に青々とした葉を見るとホッとする。採取して食卓に供した(写真下)Hppc070295

 

●山小屋のベランダにやってくる野鳥たち。今年は、水浴び場を用意した。朝、雨戸を開けると、ヒマワリの種をねだりに来る
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2016/12/02

感動の大原治雄ブラジル展

『ブラジルの光、家族の風景』

 去る11月16日、清里フォトアートミュージアム(K★MoPA)へ、大原治雄展を鑑賞に出かけた。パンフレット(写真右下2点)だけの予備知識で出かけたのだが、素晴らしい写真展だった。どうしても書かずにはいられない衝動にかられ、遅ればせながら執筆した。同展は12月4日(日)までだ。 http://www.kmopa.com/

 Hpp1img大原治雄氏(1909~1999)は、高知県生まれのブラジル移民である。写真家である前に移民としての多くの蓄積があった。写真を始めたのは、24歳で結婚したときからだという。家族の写真を撮ろうとしたきっけは、これから始まる一族の壮大なドラマを予感して記録しようとしたのか、カメラに興味を持ちはじめたのか、写真のテクニックに引かれたのか、私は、これらすべてではなかったかと推測した。大原氏の胸の内を図ることはできないが、彼の移民としての経験が反映したことは間違いあるまい。移民としてブラジル・パラナ州ロンドリーナを開拓するという、無から有を生ずるような過酷な生き方に立ち向かい、それにめどが立ったときに、所帯を持ち、何か一つのことに打ち込んでみたいというのは、自然な心の動きではないだろか。Hpp2img未開の大地を農園にするまでには、並々ならぬ苦労があったようだ。

 大原氏の写真の傾向や作風について感じたことに触れよう。『ブラジルの光、家族の風景』というタイトルがついているが、まず、自身のセルフポートレートが目立つ。これは何を意味するのだろうか。私には、家族の始まりは、自身 大原治雄であるということを伝えたいのではないか。現在、70人を超す大家族となった大原家の元は大原治雄であることはまちがいない。たくさんの子どもや配偶者、孫の写真の中に、ときどき大原自身のポートレートが散りばめられている。これほど多くのセルフポートレートが目だつ写真展は見たことがない。私が最も気に入ったセルフポートレートは、最初の壁面に飾ってあった1点だ。木に寄りかかり、足を投げだして座っている足元にコーヒーポッドが置かれている。大原氏の顔はフレーミングの中にはない。背中と左腕の一部が写っているだけだ。タイトルは、確か『休憩』か『休息』だったと記憶している。私は、このシーンの大原氏に感情移入することができる。顔をみせずに自身の休憩時間を表現しようという、この写真のモチーフに共感する。多様なセルフポートレートと写真展での公表は、私もまねしたいと思った。

 カメラを手にしたときには、過酷な開拓の時期はすでに終わっていたのかもしれないが、彼の作品には、労働の厳しさや不安な気持ちは写っていない。おそらく撮影はしたが、作品展には展示しなかったのであろう。家族の幸せとブラジルの大地を讃えたいという意図のもとに写真展は編集されていると思う。移民という日本国を代表した親善使節の役割を思えば、当然な編集意図だろう。『霜害の後のコーヒー農園』という作品があった。胸高直径2メートル以上もある巨木の切り株の上に二人の男が乗り、周囲を見渡しているスナップような記念写真である。霜害といえば、農業に従事する人にとっては深刻な事態だろう。この状況下で、かつて切り倒したであろう大木の上に立って、お山の大将のようにふるまっているのは、いったいどんな心境なのだろうか。霜害の実情を示す写真は簡単に撮れるはずだ。この写真が、大原治雄氏の写真観を象徴した作品ではないか。前述のセルフポートレートといい、霜害の写真といい、婉曲的に表現しようとしていると思う。

 シルエットと陰影を生かした作品が目立つ。タイトルの『ブラジルの光、家族の風景』のとおり、光のモチーフを多用している。ちなみに、シルエットも陰影も光のモチーフに属する。Hp4img_0004パンフレットの表紙を構成する2点の作品は、シルエットの写真だ。どちらも、背景の空が美しく、人物は大地と一体になってシルエットになっている。解説書の4ページ目『本展のみどころ』(写真左)には、『ブラジルの大地を切り開いたからこそ現れた「空」と「水平線」であり、大原はこのモチーフを繰り返し撮影しています』とある。パンフレット上段の写真の人物は大原氏だという。『苦難の日々を乗り越えた喜びに溢れる姿ですが、大原自身は画面右端に立っていることから、この写真の主役がブラジルの大地と空であることがわかります』。シルエットのテクニックを生かしたセルフポートレートである。

 最後の入出口に近い壁面には、パターン写真が展示されていた。草花や納屋の片隅に見つけた農機具などをパターン化した作品群だ。モノクロ写真なので、当然、ブラジルの光と陰影を生かした作品だ。大原氏のカメラアイの一端を知ることができた。

 大原氏の孫の一人が写真家になっている。サウロ・ハルオ・オオハラ氏が撮影した大原治雄氏のスナップが展示されていた。 ベットに腰かけている晩年の姿だ。ものさびしそうに見えるが、孫に撮影されている幸福感も読み取れた。私も写真家の端くれなので、うらやましく感じた。

 私は、鑑賞し終わったとき、大河ドラマを見たような気がした。そして、写真にもこのようなスケールの大きい表現が可能だということを知った。今までは、写真は映画や音楽にはかなわないと思っていたが、決してそのようなことはないと確信した。Hppb160141_edited2
 なお、サウロ・ハルオ・オオハラ氏が、祖父の故郷・高知県を訪れたときに撮り下ろした『Aurora de Reencontro 再会の夜明け』展も同館で展示されている。参照:田園の誘惑

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2016/10/26

サシガメとつき合う

ユニークな昆虫
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 10月25日、中央道・釈迦堂パーキングエリアで、見たことがない昆虫を見つけた。助手席に座っていると、ボンネットの上に奇妙な昆虫が見える。はじめはクモの一種かと思った。車中に常備してあるオリンパス スタイラスXZ-2で撮影を開始した。同機の望遠は105ミリ相当なので、大きくは撮れない。しかし、パソコンで拡大するつもりで撮影した。Pa259702_2

 そのうちにフロントグラスに登ってきた。スーパーマクロモードに切り替えて撮影を続けた。途中から、デジタルテレコンで210ミリ相当に切り替えて撮影した(写真左)。いずれの写真も、フロントグラス越しの撮影だ。

 図鑑で調べたとろ、サシガメの一種であることまではわかった。サシガメは、半翔目異翔亜目サシガメ科に属する。カメムシの仲間だ。口の形が鋭い針のようになっていて、これを小昆虫の体に刺して体液を吸う。人も刺されると痛いらしい。アップで見ると怖い感じがする。口針は折り畳み式で、付け根に複眼の目がある。
Hppa259706...
 車が動き始めて、高速になると、しがみ付いていたフロントグラスから消えていった。この間、約50カット撮影した。

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2016/09/09

2016年8月下旬の森のようす 八ヶ岳山麓No.201

気配…沈黙の森から

 今年の夏は、異常だった。「7月下旬の森のようす」でも触れたように、夏らしくないのである。毎年、梅雨明けから1週間はドラマティックな夕焼けが見られるのだが、今年はそれほどの夕焼けは見られなかった。夏らしい安定した天候の日は、8月には4、5日ぐらいあったろうか。Hpp8230460八ヶ岳のある中部地方は、台風の影響が少なかったが、一日の天候が目まぐるしく変わった。入道雲が舞い上がり、それがスコールのように雨をたたきつけ、夕日がさしてドラマティックな夕方を迎え、一日が終わる。撮影の出かけようとすると、急に暗くなり雨が降ってくる。その逆もあった。

 春の横浜でモクレンの早い開花から始まり、八ヶ岳山麓でも春は1週間から10日は早く推移した。初夏のズミの異常な開花、夏の低温と、異常が続いた。一方、日本各地では、猛暑日が続いたようだ。最近の台風の発生のしかたなども気になる。地球は大丈夫なのだろうか?  遅ればせながら8月下旬の森のようすをレポートする。

Hpp8260386Hpp8230417_2●キキョウのつぼみ(上左) 8月23日に見つけた小さな秋 ●キキョウ(上右) 翌日には開花していた

Hpp8220253Hpp8260194_edited1●ハンゴウソウ(上左) ●イタドリ(上右) 花は盛期を過ぎているようだが、昆虫には価値があるようだ


Hpp8250048Hpp8260330●ミヤマモジズル(左) ラン科のネジバナの仲間。しばしば岩の苔の中に根を張る ●ママコナ(右) イネ科の植物などの根に寄生し、自身でも光合成する半寄生植物

Hpp8170326Hpp8220245●タマゴダケ(左) 派手な色をしているが、食用になるという ●ノダケ(右) 茎の先端は、常に成長点として活発に分裂している。進化を目の当たりにするような成長スタイルだ

Hpp8260354_2Hpp8250073_3●ゲンノショウコ(上左) ●ミニチュアキノコ(上右 同定不詳) 高さ約15ミリのキノコ

Hpp8250082●残光が山の尾根を照らしている(上) 8月25日pm5:29撮影 ●森の中から見た夕焼け(最上) 8月23日pm6:31撮影

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2016/08/05

2016年7月下旬の森のようす 八ヶ岳山麓No.200

フォトアルバム沈黙の森からHpp7280057_2

 今年の7月下旬は、梅雨明けが遅れ天候不順だった。そのおかげで、涼しさをとおり超して寒いくらいだった。標高1400メートルの森の中では、例年より最低気温が平年よりも2度Cぐらい低かった。今までは、真夏の最低気温は16度~18度Cぐらいだったのに対し、今年は15度Cを下回ることがしばしばあった。梅雨明け直前の森のようすをレポートしよう。(写真上は夕刻の湖面。鋭いシカの鳴き声が湖面を震わせ”ているようだ)

Hp_p7220302Hp_p7240284_edited1●ウバユリ 25年前、初めて夏の森へ入ったとき、ウバユリを見て『沈黙の森から』というタイトルを思い浮かんだ。私にとっては、夏の森の象徴だ。ウバユリは、開花前にほとんどが虫食い状態になってしまう。写真上右は、虫に食われてスケルトン状態になっている。それでも、果実はできるようだ

Hpp7220244Hp_p7230230_2●ギボウシ シカ除けが機能してから、年々株が増え、花がおきくなってきた ●アカハナカミキリ 渋い赤色は、車の車体に塗装したいような品格がある

Hp_p7240419Hp_p7240427_2●リンゴドクガか? 山小屋のベランダに現れた。棒でつつくと丸まって防御の体制を作る(写真上右)。なぜ丸くなるのか、カモフラージュか? 威嚇か?


Hp_p7230100_edited1_2●エゾクマゼミ
 羽化に巡り合った。途中、イナバウアーのようなポーズになり(写真)、最後は自身の抜け殻に前足で留まる

Hp_p7230048●ミミガタテンナンショウ ウバユリとともに夏の森を特徴づける植物だ。大型なうえにシカが食べないなので、存在感がある

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2016/07/03

予告!! 写真展『沈黙の森から…春の息吹』 八ヶ岳山麓No.198

第3回 豊田芳州ネット・ギャラリー写真展

♦期日:2016年7月6日(水)~7月12日(火)
ネットギャラリー: 「豊田芳州のTheme」 http://silent-forest.cocolog-nifty.com/

Hp_dmimg_0001_edited1 八ヶ岳山麓の川上村で生活するようになってから30年になろうとしている。1400メートルの高原は、四季の変化が顕著で、それぞれに持ち味がある。しかし、私がもっとも好きな季節は冬である。冬の渓流に発達する氷は、森の宝石といてもよいほどの美しさと厳しさがある。そのようすは第2回 ネットギャラリー写真展で展示した。次に興味がある季節は春である。寒冷地の八ヶ岳山麓においては、春は格別の意味がある。眠っていた植物や動物がいっせいに蠢動し始めるようすを初めて観察したときは感動したものだ。地面からいろいろな植物が顔を出すようすは、自然界の始まりを想像させた。約4億5000万年前、植物が上陸したとき以来、繰り返されてきた現象を垣間見たような気がした。そこで、春編では自然界の原始的な風景を撮影しようと考えた。カテゴリーを次の3つに分けて掲載する予定だ。
   (1)地上へのあこがれ
   (2)揺籃期
   (3)発生のドラマ

 なお、発生とは、多細胞生物の卵が受精し、胚を経て幼生から成体となるまでの過程をいう。すなわち、生物が成長する過程での変化をさす。発生は、しばしばドラマティックだ。
 なお、夏編と秋偏もいずれは、『沈黙の森から』のシリーズで展示する予定だ。

 いつものように、ダイレクトメールを作って郵送したが、つごうで部数が足りなかった。一部の郵送されていない方々へは、お詫びいたします。

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2016/05/15

2016年5月上旬の森のようす〔B〕 八ヶ岳山麓No.196

春の息吹…『沈黙の森から』 B

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シダの若芽
(上) 繊維状の毛は、防備と威嚇の二役を担う ●オシダの若芽(左上) シダ類の葉が持つ羽状複葉のパターンには渦巻きというパターンが元にある


Hpp5030402_3Hpp5040074_2●シダの若葉
(上左) “ゆらぎ”は、植物進化の草創期に見られる一つのパターンではないか ●タラの芽(上右) タラノキは、トゲを発達させて種を保存してきた植物だ、そのおかげで、人間の口に入るチャンスができた

Hpp5014921_edited1●ツバメオモト(上) 深山に自生するといわれる

Hpp5080019Hpp5080100●シジュウカラの卵(上左) 私たちが仕掛けた巣箱には、毎年シジュウカラやコガラが営巣する ●エゾハルゼミの抜け殻(上右) 5月上旬にエゾハルゼミの鳴き声を聴くのは初めてだ。シカ避けの柵で羽化してしまった

Hpp5080178_2Hp_p5040362_edited1●ネコノメソウ(上左) ●コケの胞子体(上右) 陸上で生活するために、複雑な生活環で自然界に適応している。胞子体は裂けて胞子を放出し、それが着床して次世代が生まれる

Hpp5030587Hpp5040167_2●シラカバの雄花(上左) 花粉をたくさんばらまいている(上右) ●枝ごと落ちたシラカバの雄花

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