« 2016年12月上旬の高原のようす 八ヶ岳山麓No.204 | トップページ | 横浜・山手のイギリス館 横浜No.93 »

2017/01/11

氷の神秘性 八ヶ岳山麓No.205

〔動と静の葛藤〕
 冬の八ヶ岳山麓で最も魅力的な被写体は氷である。氷は固体と液体(水)の間で千変万化し、二度と同じ形にはならない。冬の渓流では、水の凝固と氷の融解が繰り返し起きている。人がコントロールできないという点では、氷は神秘的な存在だろう。Hpp1017370_2 結氷するには氷点下の寒気と着氷するための核が必要だ。水は氷点下になると、近くにある岩や流木の枝など、時には同じ氷などを“探して”氷になって付着する。結氷のし方にもいろいろある。Hpp1017381しずくが垂れてできる氷柱(つらら)、水流の飛沫が着氷する飛沫氷柱や飛沫着氷、空気中の水蒸気が昇華して直接個体になる霧氷などだ。それに流速や水位、流路、気温、風が影響する。これらが複雑に絡み合って氷は発達する。水温は約8度Cであるうえに流れているので、気温が0度Cではなかなか凍らない(凝固しない)。Hpp1017373_5流れが速いほど凍りにくい。渓流で水温が0度C以下になり、気温が氷点下3~5度Cぐらいなる必要がある。撮影に適した氷が発達するには一日中氷点下の日が3日ぐらい続く必要があるHpp1017412Hpp1017385_3氷も水も水の分子H₂Oで構成されているが、液体の場合は、分子が自由に動けるのに対して、固体は分子が結晶を作って、塊状になる。すなわち、水の「動」に対して、氷の「静」といえる。どちらも、自分の存在を維持しようとしているので、冬の渓流には、動と静の葛藤があるといえるのではないかHpp1017362_edited1_2Hpp1017394_2

                                        

〔氷写真の先駆者・清岡惣一〕

 氷の写真の先駆者として清岡惣一氏(1915~1991年)を挙げたい。清岡氏の写真集『清岡惣一の世界』(1993年 日本カメラ社 刊)には、多くの氷写真が掲載されている。Hpp1021502この写真集には、モノクロの作品が73点掲載されている。その中に、冬に撮影された作品が21点あり、そのうちの15点が氷(雪)の写真である。すべて日光中禅寺湖で撮影されたものだ。清岡氏は、1976年、東京・ペンタックスギャラリーで個展『雪と氷の湖畔・日光中禅寺湖』、1977年、金沢・名鉄丸越デパートで個展『雪と氷の湖畔』を開催している。残念ながら、私はどちらも鑑賞していないが、写真展のタイトルからも、清岡氏の氷に対する想いが伝わってこようというものだ。

 本写真集は、清岡氏が亡くなられてから刊行された。贈呈用の写真集に、清岡静子夫人が書かれた「御挨拶」という一文が別刷りで添えられてあった。奥さまが書かれている要旨は次のようなことだ。「病床にて故人自らが掲載作品の選定に最後の力を注ぎ、その後、多くの有志の方々の温かいご支援とご協力のもとに、完成したものです」「今、この故人の集大成とも呼ぶべき作品集を手にすると、満たされたときの主人の微笑みが思い起こされてなりません」とある。ページ構成を見ると、清岡氏は氷の写真に特別な想いを持っていたと推察できる。Hpp1021522私が言いたいことは、清岡惣一氏が氷の撮影に心血を注いでいたということだ。
 氷の撮影は、決して楽なものではない。氷点下の水辺での撮影は、指先がかじかんで、カメラ操作が思うようにできない。しかも、うっかり足を滑らせて、尻もちをついたり、衣類を濡らすと、衣類はすぐバリバリに凍ってしまう。すなわち命懸けである。清岡氏の撮影の緻密さと忍耐力は、推して知るべしである。私は、中禅寺湖畔でカメラを構える清岡氏の姿を想像した。

 カメラ雑誌の取材で、一度清岡氏にお会いしたことがある。そのとき、清岡氏の撮影姿勢と作風に好感をもった記憶がある。当時は被写体としての氷には注目していなかったのだが、実際に私が八ヶ岳山麓の渓流で氷を前にしたとき、清岡氏の心の奥底にあるものに触れた思いがした。私の氷写真の原点は清岡氏に負うところが大であると思っている。

『豊田芳州のTheme』に掲載された写真と文章は、著作権法で保護されています。無断使用はご遠慮ください。All pictures and writings on this blog are copyrighted.

|

« 2016年12月上旬の高原のようす 八ヶ岳山麓No.204 | トップページ | 横浜・山手のイギリス館 横浜No.93 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 2016年12月上旬の高原のようす 八ヶ岳山麓No.204 | トップページ | 横浜・山手のイギリス館 横浜No.93 »