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2015/05/08

辻 栄一 著 『弘前散歩』

アマチュア写真家の究極の活動
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作品を発表する意義
 写真を撮影したら個展を開催するか、写真集を刊行したい。写真で、もっともおもしろいのは撮影だと思う。それだけでも写真をやる価値はあるだろう。他人をアッと言わせる珍しい被写体や、自身の追及しているテーマにピッタリの被写体を探すのは、写真のだいご味だろう。それを自身の得意技で料理するところに、カメラを持っている喜びを感じるものだ。しかし、そこまででは写真家とは言えない。写真家とは「写真を芸術の表現手段として撮影・制作する人」(広辞苑)のことをさす。表現とは、内面的・主体的なものを外面的・感性的形象へ変換することである。すなわち、自身の内面を作品として公表することだ。もちろん、カメらを持ったからといって、だれもが写真家を目ざす必要はない。前述のとおり、撮影だけでも十分写真はおもしろい。

出版のきっかけ
 辻 栄一氏は、春夏秋冬、弘前へ通いつめて、一冊の写真集「弘前散歩」にまとめた。辻氏は、旅行のエキスパートだ。日本全国を巡り、風物や行事を撮り歩いている。弘前もその一つだ。Hpimg_0003さて、個展を開催したり写真集を刊行するには、ひとつのきっかけが必要だ。期待どおりの気に入った作品が1点撮れたり、撮影中に目の前の被写体に感動し、それを引き立ててみたい、などきっかけはさまざまだ。辻氏は、雪の中で夜の教会を撮影していて(P18~19)、その気になったという。これは被写体に影響されたというよりは、降雪に中、夜の教会と対峙する自身の気持ちに充実感を覚えたのではないだろうか。真剣にテーマに取り組んでいるときにしばしば感じる撮影の喜びだ。

企画意図から出版まで
 さて辻氏は、「弘前散歩」に先立ち、「フォトブック」(インターネットのオンラインで編集、入稿してまとめる自費出版の写真集)で弘前の春夏秋冬を4冊の小冊子にまとめている。これをプレゼンテーションにして、企画を弘前の出版社へ持ちこんだ。預けておいた企画にゴーサインが出たのである。「弘前散歩」は、市販本だ。ISBNコードも取得している。アマチュアの写真家や執筆者にはなかなかできない出版である。辻氏の執念が実ったといってよいだろう。
 「弘前散歩」には、著作者名に“横浜からの旅人”という肩書きが添えられている。Hpcimg03581すなわち、横浜という都会人の見た弘前であり、“よそもの”の目から見た弘前を紹介しようという企画意図がある。現地の出版社「路上社」は、これに賛同したようだ。辻氏の目線(カメラアイ)は、横浜という大都会型の観光地で磨かれているうえに、旅慣れた目線はほかの地方都市との区別化にも役立ったろう。

現地の評価
 地元の陸奥新報の3月25日版に書評「迷宮の街の魅力再発見」が紹介されているので、コピー(上左 ポップアップ可)を掲載しよう。また、本書は、現地の紀伊国屋書店の人気ベスト10の7位にランクされている(東奥日報3月22日)。出版社の取り計らいで、辻氏は市役所を表敬訪問し、葛西・弘前市長へ本書を贈呈した(写真上右)。出版からマスコミの対応など、弘前市民の部外者に対する鷹揚さがうかがわれる。
 私の感想だが、写真集としてはややカタログっぽさが目だつ。建築・施設や名所などの紹介が目につくからだ。しかし、旅行者が弘前の町を逍遥するにはうってつけのガイドだろう。現地で地図を購入して歩きたい。本書を入手したいとき、書店に在庫がなくても取り寄せてくれる。【体裁】A5判、カラー128ページ、1,850円(ISBN978-4-89993-070-9 C0072 \1850E)

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