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2012/03/31

バロック・サウンド 横浜No.60

大倉山記念館のコンサートHp

 横浜市・大倉山記念館では、ときどきコンサートが開催されている。3月28日には、古楽器による「トリオ・ソナタの夕べ」というコンサートがあった。関心があるだけでなく、出演者に知り合いがいるので聴きに出かけた。主催と演奏者はConcerto Giocoso(横浜古典楽器アンサンブル)である。その中の二人は以前、家内が美術の指導をしたことがある。(写真右は当日のプログラム)

 当日は、トリオ・ソナタという形式の曲に絞って選曲された。トリオ・ソナタは、バロック時代(17~18世紀ごろ)に流行した音楽形式で、3声部からなる器楽曲だ。二つの高声部に通奏低音を加えた3声部だが、通奏低音はチェンバロとビオラダガンバ(チェロの古典型)で演奏するので、合計4人で演奏される場合が多い。楽器の組み合わせはさまざまで、当日の高声部には、バイオリンとリコーダー(ブロックフレーテ、縦笛)の取り合わせだった。トリオ・ソナタは、以後の古典派やロマン派の弦楽四重奏の元になったという。

 演目の作曲家は、フランソワ・クープラン(1668~1733年 フランス)、アルカンジャロ・コレッリ(1653~1713年 イタリア)、ヨハン・ヨアヒム・クヴァンツ(1697~1773年 ドイツ)、ジャック=マルタン・オトテール(1674~1763 フランス)、ゲオルグ・フリードリッヒ・ヘンデル(1685~1759年 ドイツ→イギリス)、アントニオ・ヴィヴァルディ(1678~1741年 イタリア)、マルコ・ウッチェリーニ(1603~1680年 イタリア)だ。いずれもバロックに時代に活躍した作曲家である。Hpp3280592それぞれの作曲家の作風に加え、イタリア、フランス、ドイツ、イギリス、それぞれのバロック音楽のスタイルの違いも興味深かった。解説によると、装飾音の付け方が違うのだという。装飾音とは、楽譜に書かれた音に部分的に付加する音で、曲の表情を豊かにするためのもの。私たちがよく聴くトレモロはその一種だ。バロック時代は即興で演奏されたが、後に楽譜に記載されるようになったという。

 ステージからバロック時代の演奏風景を想像した。バロック時代の音楽は、おそらくコンサートというよりサロンの余興であったのではないか。演奏者は互いに装飾音の付け方で、音の会話を楽しんだのではないだろうか? トリオ・ソナタの演奏には指揮者はいない。コンサートマスターに匹敵する第1高声部がリードするのだが、全員の息が合わないと演奏は成り立たない。それは、昔も今も同じだろう。当時は、現代のようなコンサート・ホールでの演奏ではなく、室内楽が主流の時代だ。それも身近な人との社交的な場であったと思われる。私はドイツでたくさんのバロック時代の町並みを見てきたので、その風景に重ねながら聴いた。

 中休みに、調律師がハープシコードの調律をした(写真上左)。ハープシコードはピアノと違って弦楽器なので、音程が狂いやすいのだろう。一音一音ていねいに音程を合わせるのである。Hpp3280598_3 これもバロック時代ならではの風景ではないかと思った。後半のはじめに古楽器の解説があった(写真左)。現在からみれば未完成ながらも、現代楽器の前身としての役割と、クラシック音楽草創期の先人たちの工夫や情熱を感じたのである。出演者は、少なくとも二つ以上の楽器を弾きこなしていた。これも、バロック時代ではあたりまえだったのではないか。

 7曲目は、ヴィヴァルディのトリオ・ソナタニ短調『ラ・フォリア』(作品1の12番 RV63)だ。『ラ・フォリア』は、古来有名なテーマ曲で、多くの作曲家が取り上げた曲だという。ヴィヴァルディはこれをみごとな変奏曲に仕上げた。私は変奏曲が好きである。Hpp3280611J.S.バッハの『ゴールドベルク変奏曲』やブラームスの『ハイドンの主題による変奏曲』は圧巻だ。ベートーベンもヘンデルやモーツァルトの曲を変奏曲にしている。モーツァルトの『きらきら星変奏曲』はあまりにも有名だ。変奏曲はテーマ曲と変奏の織りなす力学がすばらしい。「原形とデフォルメ」という芸術の根源に触れるものがあると思っている。ヴィヴァルディの『ラ・フォリア』にも変奏曲のだいご味を感じた。アンコールはテレマン(1681~1767年 ドイツ)の曲だった。私はその日、バロックのサウンドから好きなドイツ(ヨーロッパ)の香りを感じることができた。なお、演奏中の撮影は控えた。(写真上右は横浜・大倉山記念館)

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