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2007/03/11

アナログ・デジタル愚考

『ハーモニー』の刺激

 エジソンが1877年、蓄音機を発明して以来、SPレコードの時代が長く続いた。1948年にモノラルのLPレコードが発売され、1958年にステレオが実用化された。よほど画期的だったとみえ、名だたる演奏家がステレオで録音し直そうという機運があった。私の好きなブルーノ・ワルターも、70歳を超えていたがコロンビア交響楽団(録音専門の楽団)を指揮して多くの曲を録音した。演奏家にとってもステレオ録音はよほど魅力的だったのだろう。しかし、ワルターの演奏はモノラル時代のほうが油が乗っていて良いと言われる。

 大学生のとき、中学時代の恩師の紹介で家庭教師のアルバイトをした。週2回、1か月のアルバイト料は5,000円だった。稼いだお金で何を買ったかといえば、LPレコードである。けっして安いアルバイト料ではなかったが、LPレコードが2枚しか買えなかった。当時は、ステレオ化された直後で、モノラルが1枚1,500円、ステレオが1枚2,000円~2,500円だった。音楽好きにもステレオLPは魅力的だった。

Hpp2154464_1  大学で1学年先輩の父君がレコード屋を開業されていた。当時は、ミューズ社と言い、お店は神保町にあった。すぐ現在の神田駿河台に移り、『ハーモニー』というお店(写真)になった。輸入レコードが専門で、CDやデジタル時代になった現在でもそれは変わらない。輸入盤は特に音が良いので、コレクターやマニアには垂涎の的だった。私には高嶺の花だったが…。オーナーの上田応輔さん(写真)は、音楽とレコードに関する見識は卓抜で、演奏家とレコードについて多くのことを教えていただいた。クラシック音楽とドイツが好きになるきっかけだった。上田さんにはアルバイトも紹介していただいた。プロ写真家の助手である。写真家にあこがれていたので、うれしかった。それがきっかけになって出版社の写真部へ就職できた。そこまでの私の道のりは平坦ではなかったので、『ハーモニー』の上田さんは恩人である。  

 ところで最近、LPレコードの人気が復活してきたという。 『ハーモニー』はホームページで、『アナログLPの宝庫』とPRしている。写真の世界と同じように、音楽でもアナログとデジタルの比較論がある。アナログLPレコードは、音の周波数をそのままレコードの溝に波形として記録している。ピックアップ(カートリッジ)の性能が良いと30000~40000Hzの高音まで再現できるといわれる。これに対してCDは大体20000Hz以上の高音はカットされている。人間の耳は、よほどの人でも20000Hzが聴こえるか聴こえないかだ。歳をとると可聴周波数は15000~10000Hzぐらいになってしまう。だからCDの周波数特性で十分という理屈は成り立つ。しかし、楽器は基音(楽譜に書かれた音程)のほかに倍音として整数倍の音を発している。これが楽器独自の音色に影響しているという。聴こえないからといっても、鼓膜には何らかの刺激があるのではないか。作曲家もそこまで計算しているに違いない。その効果を無視したくないというのがLPを求める一つの理由だろう。CDは音声を一度デジタル信号に変換しているので、LPレコードよりは生(なま)から遠いと言える。できるだけ生(なま)に近い音楽を聴きたいというのが、アナログレコードにこだわる第2の理由だ。この環境を「レコード芸術」と言ってよいのではないか。もちろん、これにはアンプやスピーカーの特性に影響されるので、ハイクラスのオーディオ再生装置を使っての話である。それに加え、『ハーモニー』では、初版盤や希少盤など骨董的な名盤をたくさん扱っているので、これが目当てのファンもいる。

Hpp2154460_1  人が聴覚や視覚で認知するとき、アナログとデジタルは同じように脳に刺激を与えるものだろうか。専門家の話を聞きたいものだ。アナログからデジタルへの移行は、生物の系統発生のように自然な流れだと思う。個体発生(人間の脳の進化)は系統発生(技術や文化の進化)に準ずるとすれば、私たちは、まずアナログで鍛え学び、そのあとにデジタルの利便性や多様性を利用するのが良いのかもしれない。アナログは、感覚や認知力を鍛えるのに適しているような気がする。これは自身の体験だ。

 さて残念なことに、ハーモニーは3月20日で閉店してしまうという。それ以降は、ネット販売と通信販売だけになる。㈱ハーモニー  〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台3-1 (JR御茶ノ水駅から小川町交差点へ向かって徒歩5分、小川町交差点からは徒歩30秒) ☎ 03-3293-0717 http://www.harmony-record.co.jp

【補足】現在、注文は電話 03-3526-4658、FAX 03-3526-4659、Eメール kj3h-ued@asahi-net.or.jp 、またはホームページhttp://www.harmony-record.co.jp から申し込んでください。

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